ヤジ馬の日本史

日本の常識は世界の非常識?この国が体験してきたユニークな歴史《日本史》の不思議をヤジ馬しよう!

タブー編20/戦時の歌からイマを覗くと

(一応は)平和な環境にある21世紀の現代日本には、20世紀に親しまれた軍歌や
戦時歌謡曲がほぼほぼタブー視されているような雰囲気があります。
確かにその点には微妙なものがあるようで、誰かがついうっかり「ボクは軍歌が
大好きです」なんて漏らそうものなら、もうそれだけで「戦争好き/軍国主義者」と
いうレッテルを張られかねない印象です。


でも、少し冷静に考えれば、推理小説のファンが必ず殺人狂というわけではないように、
軍歌好きな人が必ず軍国主義者ということではないような気がするのですが・・・
それはともかく、筆者も最近そうした軍歌・戦時歌謡曲にYouTubeで接しました。


とりわけ特徴的なのは、どの曲も覚えやすくて歌いやすいメロディになっていること
です。
おっと、ここで「メロディ」なんて言葉を持ち出したのはちょっと拙かったかな? 
なぜなら、当時はこんな時代だったからです。


大日本帝国では、日中戦争開戦により敵性国となったアメリカやイギリスとの対立が
 より深まる1940(昭和15)年に入ると、英語を「軽佻浮薄」(浮ついている)と

 位置づけ、「敵性」にあたるものだとして排斥が進んだ~
つまり、英語を使ってはイカンということです。


ということで、ここは「メロディ」という敵性語ではなく、「旋律」とか「節」とか、
きっちりと日本語で言うべきだったかもしれません。
しかし、20世紀に製造された「敵性語」という感性が、カタカナ言葉が溢れかえる
21世紀になってもなお生き続けているとは思えませんから、まあえぇことにしておくか。


さて「歌いやすい」というからには、当然そこには「歌詞」があるはずです。
歌詞が無いことには、では何を歌うのじゃ、という問題になっりますものねぇ。
そこで今回は、そうした「軍歌・戦時歌謡曲の歌詞」という小さな窓から、
逆に現代(イマ)を覗いてみることにしたのです。 


 (左)負んぶ   抱っこ(右)


さて、唐突ですが「おんぶにだっこ」という言葉があります。 
漢字で書くなら「負んぶに抱っこ」で、その意味は、
~幼児がおんぶの次には抱っこしてと甘えるように、他人の好意に甘えて、
 迷惑をも顧みずに頼りきること。 
 何から何まで人の世話になること。他人の好意に甘えて頼り切ること~


ここではその「負んぶ」「抱っこ」の具体的な形態そのものに注目してみました。
なぜなら、戦時歌謡曲「日の丸行進曲」(作詞:有本憲次/作曲:細川武夫)に
こんな歌詞があったからです。


一番/母の背中にちさい手で/振ったあの日の日の丸の/遠いほのかな思い出が/
   胸に燃え立つ愛国の/血潮の中にまだ残る/

ちなみに「ちさい手」とは「小さい手」のことです。


さて、この場面の「小さい手の持ち主」は、明らかにお母さんに「負んぶ」されて
います。
なぜなら「母の背中に」とされているからで、これが「抱っこ」なら、「母の胸に」
くらいの表現になるはずだからです。


ということから、戦時歌謡曲「日の丸行進曲」の小窓から覗いた場合、「幼児の扱い」
については、20世紀(昔)日本と21世紀(現代)日本との間に大きな違いがあることに
気が付きます。 
昔は「背中に負んぶ」の方法が一般的であったのが、現代では(前向き/後ろ向きの
違いはあるようですが)、「胸に抱っこ」が主流になっているということです。


では、幼児当人にとっては、「負んぶと抱っこ」のどちらの方が嬉しくて心地良かった
のか?
こうした点は、すっかり大人になってしまった筆者なぞは、とっくに忘れてしまい
ましたが、ことのついでに、そこらあたりの育児評論記事などもちょっと覗いて
みたのです。


するとそこには、双方のメリット・デメリットが大層細かに書き連ねてありました。
ただその結論となると、どうやら「ケース・バイ・ケースで使い分けるのが賢い方法」と
いうことのようで、まさに~大山鳴動して鼠一匹~もどきの経過になってしまいました。


それはともかく、同曲の五番はこんな歌詞になっています。
五番/永久(とわ)に栄える日本の/国の章(しるし)の日の丸が/
   光そそげば果てもない/地球の上に朝が来る/平和かがやく朝がくる/


~地球の上に朝が来る~なんて歌詞は、今どきの歌謡曲ではおそらく使われないで
あろうほどの壮大気宇壮大さを備えています。
また併せて、ここには~平和輝く朝が来る~という文言もあります。
そうしてみると、ひょっとしたら、~現在の戦争は平和を実現するためのもの~ 
その歌詞に、こんな思い・願い、あるいは弁解の意味合いまでも滲ませていたのかも
しれません。


さて、ここからはモロに余談になりますが、この「日の丸行進曲」が発表された
2年後の1940(昭和15)年のことです。
とあるボードビリアン・グループが自らが舞台に登場する際のテーマ曲とした歌曲の
タイトルが、はやり「地球の上に朝が来る」だったのです。


ちなみに、その歌詞も覗いておくと、
♪ 地球の上に朝が来る/その裏側は夜だろう/西の国ならヨーロッパ /東の国は東洋の/
 富士と筑波の間(あい)に流るる隅田川/・・・


そして、この曲「地球の上に朝が来る」について、Wikipediaにこんな紹介があります。
~このフレーズは、当時ビクターが全社を挙げて宣伝していた戦時歌謡「日の丸行進曲」
 の第5節の最後に登場する歌詞を引用したものではないかと言われた~


やっぱり、そう受け止める雰囲気は当時もあったようです。 ところが、
~「地球の上に朝が来る、その裏側は夜だろう」のフレーズは「犬が西向きゃ尾が東」
 という浪花節でよく用いられる対極を歌った独特のセンスを踏襲しており・・・~
だから、引用には当たらないと判断された、という意味なのかな?


  織井茂子&コロムビア男性合唱団


 応援クリックを→ にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ ←にほんブログ村


さて、この戦時歌謡曲「日の丸行進曲」と同じ1938(昭和13)年に朝日新聞が、
「皇軍将士に感謝の歌」の懸賞募集をしました。
(えぇ、あの「朝日新聞」もかつては堂々と軍部に協力していたということです。)


~この募集の一等が「父よあなたは強かった」で、作詞したのは福田節という
 一般の女性で、作曲に際しては山田耕筰や服部良一等を含む12人の 作曲家に

 依頼して作曲したものをテスト盤に吹き込み、一般大衆を主とした公開視聴会を
 行った~
かなり気合の入った制作風景だったと言ってよさそうです。 


そして、
~こうした作品群の中で、よく大衆の想いにマッチした曲としてコロムビア専属の
 新人作曲家・明本京静(あけもと・きょうせい)が作曲したものが選ばれた~

「皇軍将士に感謝の歌」との趣旨ですから、バッチリ「軍歌」です。


その全体は、一番から五番までで構成される長い物語になっています。
今回は、そのうちの一番二番の歌詞を見てみました。


一番/父よあなたは強かった/兜も焦がす炎熱を/敵の屍(かばね)とともに寝て/
   泥水すすり草を噛み/荒れた山河を幾千里/よくこそ撃って下さった/

二番/夫よ貴方は強かった/骨まで凍る酷寒を/背もとどかぬクリークに/三日も
   浸かっていたとやら/十日も食べずにいたとやら/よくこそ勝って下さった/


登場する言葉の意味も補足しておきましょう。
ここでの「兜」(かぶと)とは当然ですが、武将などが用いた派手な前立(装飾物)の
ある兜ではなく、戦場で兵士などが頭部を保護するために被った、いわゆる
「鉄帽・鉄兜」(ヘルメット)のことです。


また「クリーク」とは、敵軍の侵攻を妨害するために設けた水路などのこと指し、
日本軍と戦う中国軍は事前にこうした施設を盛んに建設したとされています。
ですからこの歌詞の場合、夫はそうした「クリーク」に三日間も閉じ込められ、
さらには十日間ほども満足な食料にありつけなかったと言ってることになります。


そして、そうした苦難・試練を耐え抜いた兵士の姿を、この歌は「立派/美挙」として
称えているわけですが、このことを現代目線で眺め直すなら、こういう見方をされる
のではないでしょうか。


〇何日もの間、クリークから一歩も動けないなんて、そもそも前線司令官が無能であり、
 作戦そのものがハナから間違っていたのではないか。
〇何日もの間、まともな水や食料を口にすることができないなんて、物資調達の計画が
 あまりにも杜撰で無策過ぎるのではないか・・・等々。


もし実際にこうした事態があったとしたら、21世紀(現代)日本ならおそらくは、
その命令を下した司令官・司令部の責任問題の方向に発展していくことになるので
しょう。 当然です。
適宜的確な命令を下すことこそが、彼らの第一の責務なのですからねぇ。


ところが、20世紀(昔)日本ではそのようには捉えていません。
つまり司令官・司令部の責任を問うのではなく、とてつもない艱難辛苦に耐え抜いた
兵士らの側をひたすら褒め称えているのです。
冷静に考えれば、まともな作戦ならまったく味わう必要のない試練だったにも
かかわらずです。


ということで、今回は軍歌・戦時歌謡曲という小さな窓を通じて、20世紀(昔)日本と
21世紀(現代)日本の相違点を探してみた次第です。
つまり筆者は、新しい軍歌や戦時歌謡曲を必要とすることの無い21世紀(現代)日本で
あって欲しいと思う一人ということです・・・念のため。


 応援クリックを→ にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ ←にほんブログ村