ヤジ馬の日本史

日本の常識は世界の非常識?この国が体験してきたユニークな歴史《日本史》の不思議をヤジ馬しよう!

偶然編05/昔日の医術・病気に鉢合わせ

つい最近のこと、思いがけない出来事が重なる経験をしました。
「重なる」という以上は、複数の出来事がほぼ同時に起きなくてはなりません。
筆者の場合だと、その一つ目がまずDVD映画で、二つ目がWikipediaでした。


普段はまずしないことなのですが、身の回りの片付け物に精を出したのです。
すると、数枚のDVD映画がひょっこり姿を現しました。
思わぬラッキーということもあって、保管状態の確認も兼ねてその中の一枚を見て
みることにしたのです。


その作品はメッチャ古い邦画で、1967年作品『華岡青洲の妻』(原作:有吉佐和子/
監督:増村保造)で出演は市川雷蔵/若尾文子/高峰秀子/など豪華絢爛な配役です。


折角ですから、その内容にも少し触れておくことにしましょう。
ざっとこんな感じになります。
~都での三年間の医学修業を終えた華岡雲平(青洲)の麻酔術研究はほぼ完成し、
 あとは人体実験を行うことでその効果を試すだけだった。
 そんなところへ、不意に母・於継が、自分をその実験に使って欲しいと申し出た。
 これに驚いた嫁・加恵は妻として自分こそが実験台になると夫・青洲に迫り・・・~

(この場面は下の動画でも確認いただけます)


さらにもう少し踏み込んでみましょう。
~二人の争いを憮然と眺め、意を決した青洲は二人に人体実験を施すことにした。
 実験は成功だったが、強い薬を与えられた嫁・加恵は副作用で失明し、そして、
 その加恵に長男が生れる頃に母・於継が亡くなった~


欲を張って、もっと進んでみると、
~やがて青洲は、世界最初の全身麻酔による乳ガンの手術を成功させた~


ちなみに、その「華岡青洲」とは実在した人物で、Wikipediaでは、このような案内に
なっていました。
華岡青洲(通称:雲平/1760-1835年)
 記録に残るものとして、世界で初めて全身麻酔を用いた乳癌手術を成功させた。
 欧米で初めて全身麻酔が行われたのは、青洲の手術の成功から約40年後となる~


なんと「世界初」であり、また「世界に先立つこと約40年」ですから、これもまた
メッチャ凄いテーマなのですが、この作品の凄みはもうひとつ、一人の男を巡っての
嫁と姑(しゅうとめ)が「さや当て/嫉妬/対立」する姿まで描き切っていることです。
ここらあたりも作品に対する大きな評価に結びついていたように感じられました。


 映画『華岡青洲の妻』


それはともかく、率直な感想をぶっちゃけておくなら、最近の作品にはない、映画作りに
対する真摯な姿勢が感じられて、そこにも心地良いものを覚えました。
要するに、思いがけない一つ目の出来事は~DVD映画で「医学・病気」のお話~に

出くわしたということです。


だったら二つ目のWikipediaとは?
実は、同じその日のこと、心ならずもネット徘徊に陥ってしまったのですが、どうした
加減か、これまた~「医学・病気」に関連~したちょいと面白げな記事に巡り合った
ことです。 ええ、そのタイトルは、そのものズバリで「病草紙」(やまいのそうし)。
そして、この「病草紙」に関するWikipediaの案内が面白いのです。


~平安時代末期から鎌倉時代初期頃に描かれた絵巻物で、絵、詞書ともに作者は未詳。
 簡単な説話風詞書に一図の絵を添え構成された、当時の種々の奇病や治療法など
 風俗を集めたものである~

どうです、ちょっと興味を惹かれませんか。 
えぇ、筆者は早速のこと覗いてみました。


すると、男女合わせて21種類の当時の病気が一覧になっています。
そして、それぞれの病気について、当時の案内の文言と、さらには現代(昭和時代)に
出版された本を参考にした説明が「解説欄」に付記されていて、これが結構に面白い
のです。


筆者だけが面白がっていてもナンですから、順を追って一緒に覗いてみることに
しましょう。
ただし、本ブログの限られたスペースで、21種類全部の病気を紹介することは困難と
思われるので、ここでは抜粋に留めます。
筆者同様に興味を持った方はWikipedia「病草紙」からご覧くださいな。


さて、いきますよ。
№01/鼻黒の親子(→以降の文章は、解説欄にある説明要約)
   →下級武士の夫婦子供の5人家族中、妻以外はみな鼻先が黒い。
「子孫子あひつぎて皆黒かりけり」と記す。
酒渣(しゅさ)と呼ばれる鼻が赤くなる症状がひどくて黒く見えたものか。
回虫の寄生により鼻が黒ずんで見える場合もある。


筆者もお酒飲みの人の赤い鼻は見たことがあります。
しかしながら、「回虫の寄生」が原因の場合もあるなんてことはトント知りませなんだ。


さて、男女の境界線についても触れています。
こうした性の問題は、現代ばかりでなく当時においても当時なりの微妙さがあった
のかもしれませんね。


№06/二形(ふたなり)の男
   →両性具有の事。 
姿は男だが女のようにも見えることを不思議に思った者たちが、彼の寝入った
ところで着物をまくり、男女の性器があるのを見て驚き笑っている。


絵の説明になっていますから、その絵が無くてはお話になりません。
そこで、その絵もちゃんと下段に貼っておきました。 筆者の親切心です。


 

      二形の男 ←《病草紙》→ 肥満の女


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それはそれとして、現代では、なんでも男女の「性を構成する要素」は四つほどあると
されるようで、こんな説明です。
1> 身体の性→「からだ」の性/身体的な特徴や染色体などより客観的に判断されるもの
 2> 性自認→「こころ」の性/自分自身が認識している性別
3> 性的嗜好→ 「好き」の性/感情や情緒的・性的な関心がどの性別に向かっているか
4> 性別表現→「らしさ」の性/服装や言葉遣い、振る舞いをどのように表現したいか


筆者なぞは、「男女の定義」がこんなに複雑なものだとはつい最近まで知りませなんだ。 何かにつけ、複雑かつ疲れる時代です。


次にはこんな「病気」も紹介されています。
№09/尻に穴多き男(ちょっと驚くタイトルです!)
   →「尻の孔(あな)数多(あまた)ありけり」で、幾つもの尻の穴から大便を

    するのを妻らしき女がのぞいている。 明らかに痔瘻である。
「屎まる(くそまる/排便する)とき、孔毎(あなごと)に出て煩らはしかりけり」と、
その苦痛が表現されている。


そして、その「痔瘻」を少し追ってみると、
~痔瘻(じろう)は、肛門の周辺に穴ができて、そこから膿が出る疾患。
 肛門部に膿のトンネル(瘻管)が出来た状態のことを言う。
 蓮痔(はすじ)、穴痔(あなじ)とも呼ばれる~

幸いなことに、筆者はこれまでその「痔瘻」なる病を経験したことが無いのですか、
体験談あるいは症状説明によれば、相当に辛い病気のようですねぇ。


てっきり「現代特有の病気」だとばかり思い込んでいたのが、ドッコイ見事に裏切られた
症例もありました。
№14/眠り癖のある男
   →官僚とみられる男が執務中に眠り込んでいる。
ウイルス感染による嗜眠性脳炎(エコノモ脳炎)であろうか。
特定の脳内物質の欠損による
ナルコレプシー睡眠時無呼吸症候群の可能性もある。 
脳腫瘍によっても起こる事がある。


こうした原因で起こる症状も、当時は一律に単なる「眠り癖」ということで片づけられて
いたようです。


さらには
№21/肥満の女
   →驚異的に肥満し、女たちに両脇を抱えられてようやく歩いている裕福な家の女性。
脳の摂食にかかわる中枢に障害が起きると満腹感が得られず、
食欲を制御できなくなり、こうした肥満状態に陥る場合がある。


ちなみに「摂食障害」について、もう少し足を延ばしてみると、
~必要な量の食事を食べられない、自分ではコントロールできずに食べ過ぎる、
 いったん飲み込んだ食べ物を意図的に吐いてしまうなど、さまざまな症状がある~


さらには、
~「摂食障害」の代表的な病気には「神経性やせ症」、「神経性過食症」、
 「過食性障害」がある~

筆者は少々の意外感を覚えたものですが、こうして「病草紙」に取り上げられている
からには、この「摂食障害」って病気も随分昔からあったことになりそうですねぇ。


以下は余談。
そういえば、ブレンダン・フレイザーがアカデミー主演男優賞を獲得した
2023年映画『ザ・ホエール』が描いたのも、体重272キロにもなってしまった自分の
巨体をもてあます「摂食障害」の男の姿でした。


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