事始め編32/夫婦神の国生みと三貴神
日本神話の一つに「国生み/国産み」と呼ばれる物語があります。
「大八島/大八洲」(おおやしま)」、要するに、現在日本列島と呼ばれている
島々の創造過程のお話のことで、『古事記』では、その大事業の経緯はこのような
説明になっている・・・とのことです。
~伊邪那岐(イザナギ)、伊邪那美(イザナミ)の二神は、漂っていた大地を完成
させるよう、別天津神(ことあまつがみ)たちに命じられた~
つまり、イザナギ・イザナミの夫婦神自身の積極意思に基づくものではなく、
自分たち以外の「別天津神たち」に命じられたことをキッカケとしています。
この場面だけでも既に結構大勢の神様たちが登場していますので、頭がの中が
クシャクシャになってしまう前にそれぞれの神々のプロフィールについても少し
整理しておきましょう。 この際のカンニングはご容赦くださいね。
〇イザナギ → 三貴神(アマテラス/ツクヨミ/スサノオ)など多くの神の父神で
あり、初代・神武天皇の7代前の先祖(とされている)。
〇イザナミ → イザナギの妻。 しかし、三貴神の母神ではない。(経緯は後出)
〇別天津神 → 天地開闢の時にあらわれた(読み取り難儀なお名前の)五柱の神々。
(天之御中主神/高御産巣日神/神産巣日神/
宇摩志阿斯訶備比古遅神/天之常立神)
登場する神々がやたらと多いため、それぞれに真正面から取り組めばアナタの頭痛は
必至。 そこで、適宜端折って先を急ぐことにします。
さて『古事記』によれば、その大八島は次のような次第で生まれたと説明されています。
~イザナギ、イザナミの二神は、別天津神たちから与えられた天沼矛(あめのぬぼこ)
で渾沌とした地上を掻き混ぜた。
このとき、矛から滴り落ちたものが積もって淤能碁呂島(おのごろじま)となった~
なんですか、その「オノゴロ島」って? そんなこと筆者が知るハズもありません。
そこで再度のカンニングに及ぶと、
~オノゴロ島、又はオノコロ島とは、神々がつくり出した最初の島~
そして、
~そのオノゴロに降りた二神は、「天の御柱」と「八尋殿」(広大な殿舎)を建てた~
要するに、まず最初の仕事として、自分たちの住居を整えたようです。
どこが違うの?違いがハッキリ!
ここからは、アナタがお好きなエピソードに入っていきます。
~イザナミは自分の身体に足りない所(女性器)があることを発見し、
イザナギは余っている所(男性器)があることを発見した。
イザナギはイザナミの足りない所に彼の余っているところを差し込んで国産みを
行うことを提案し、イザナミはこれを承諾した~
かなり遠慮のないストレートなものの言い方になっています。
そして、いよいよです。
~天の御柱をイザナギは左から周り、イザナミは右から回って鉢合わせ。
お互いの魅力を褒め合った。 (で、ベッドインした?)
ところが、生まれたのはヒルコ(異形の子?)とアハシマ(淡島/子の名?)だった~
ちなみに、このヒルコとアハシマはイザナギ・イザナミの夫婦神の子としては
カウントされない、との注記がされています。
その意味合いにはイマイチ分かりにくい感じありますが、全体的には何とはなしに
影っぽさを感じさせる印象になっています。
ただ、ここの解釈には、
~(女の)イザナミが先に言葉を掛けたこと~が不幸を生んだ原因であり、
~(男の)イザナギの方が先に言葉を掛けたときには不幸を招かなかった~との
主張?が隠されているとの見方もあるようです。
もしそういうことなら、こうした言い分?は神話世界のことだから許されることで
あり、現代なら間違いなく「性差別」との糾弾を受けることでしょうから、皆様も
充分にお気をつけください。
それはともかく、さて、お話を「国生み/国産み」へ戻すと、
~そして二神は、大八島を構成する島々を生み出していった~
つまり、ここから先が「国土(日本列島)創造奮闘記」になるわけです。
そしてそれを現在使われている名称を優先する体裁で、生んだ島の順に並べ直して
みると、こうなります。(最後尾は現在の日本列島における島面積のランキング順位)
<1>淡路島 (淡道之穂之狭別島/あわじのほのさわけのしま) 第11位
<2> 四国 (伊予之二名島/いよのふたなのしま) 第04位
<3>隠岐島 (隠伎之三子島/おきのみつごのしま) 第19位
<4> 九州 (筑紫島/つくしのしま) 第03位
<5>壱岐島 (伊伎島/いきのしま) 第23位
<6> 対馬 (津島/つしま) 第10位
<7>佐度島 (佐渡島/さどのしま) 第08位
<8> 本州 (大倭豊秋津島/おおやまととよあきつしま) 第01位
イザナギ・イザナミ / 国生みリスト(大八島/大八洲)
よくよく眺めて見ると、日本列島での島面積ランキングが第02位の「北海道」や、
あるいは、同じく第07位の「沖縄島」がランクされていません。
これは無理もないことで、神々の時代には、まだ日本の国土とは認識されて
いなかったからです。
それぞれの島には、このような歴史事情があったのです。
~江戸時代までは、いわゆる「未開地」の扱いで、1869(明治2)年、明治政府の
律令制に組み込まれ、北海道と命名された~
一方の「沖縄島」は、
~明治政府による、いわゆる「琉球処分」(明治時代初期)によって、琉球王国を
清国の冊封体制から切り離し、沖縄県として自国領に編入した~
また、別にこんな説明の仕方もあるようです。
~日本では明治維新により新政府が誕生。 これによって廃藩置県が行われ、
琉球王国は琉球藩として位置づけられたが、1879(明治12)年には、琉球王国が
崩壊し、沖縄県が誕生した~
いずれにセヨ、こうした後世の経緯は「国生み」時代の神々にとっては、まったく
「想定外の出来事」だったことになりそうです。
ちなみに、「沖縄」と「琉球」という地名の違いについては、こんな説明になって
います。 ~日本側の呼称が「沖縄」で、中国側からの呼称が「琉球」~
それにしても、島面積ランキング第09位の「奄美大島」や、同13位の「屋久島」、
同14位の「種子島」などが「大八島」選抜に落選しながら、もっと下位の
同19位「隠岐島」、さらに下位の同23位「壱岐島」がちゃっかり当選しているのです。
これだけ重要視されているという事実は、これらの島々を経路として、文物や情報が
中国・朝鮮方面から「本土」に入ってきたことを反映したものだと考えられます。
だからこそ昔の人々は、面積は小さいものの、他の島々よりはぐっと濃い親近感を
抱いていたということなのでしょう。
さて、お話をイザナギ・イザナミの夫婦神に戻します。
~三貴神(アマテラス/ツクヨミ/スサノオ)の父神はイザナギだが、しかし、
その妻であるイザナミは三貴神の母神ではない~
この部分の経緯の紹介にまだ触れていなかったからです。
そのお話はこのようになっています。
イザナミが「火の神」を産んだ際に陰部に火傷を負い、その後の療養の甲斐なく
遂には亡くなってしまった。
すると、死んだ者は好むと好まざるとに関わらず「黄泉の国」(死後の世界)へ行く
ことになります。
これは人間はモチロンのこと、神様も例外ではないとしているのですから、
この「民族の信仰」にはメッチャ強いものがあります。
そこで、夫・イザナミは妻・イザナミを奪還すべく「黄泉の国」へ潜入します。
しかし遅すぎた。
なぜなら、イザナミはもうドップリ「黄泉の国」の穢れに汚染されてしまっていた
からです。
そこで、イザナギはほうほうの体で穢れに満ちた「黄泉の国」を脱出。
やっとのことで地上世界へ舞い戻れたイザマギが、ここでまず最初に行ったことは
「黄泉の国」の穢れに塗れてしまった自分の身体を洗い清める「禊/みそぎ」でした。
水の流れに身体を浸して、全身の禊を進めるとき、イザナミから多くの神々が
誕生しました。
そして最後に、左目を洗った折に生まれたのが太陽女神・アマテラス、右目からは、
これまた夜を統括する月女神のツクヨミ、最後の最後に鼻から生まれたのが、
海原の男神・スサノオでした。
ですから、イザナギ・イザナミはメッチャ仲の良い夫婦神であったのですが、
こういうことになるわけです。
~三貴神の父神は間違いなくイザナミであるが、母神はイザナギではない~
なぜなら、三貴神誕生の折には、イザナミは既に亡くなって「黄泉の国」に往って
いたからです。
つまり今風に言うなら、こんな感じになるのでしょうか。
~イザナミには、三貴神の母神であるための「アリバイ」がない~
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