ヤジ馬の日本史

日本の常識は世界の非常識?この国が体験してきたユニークな歴史《日本史》の不思議をヤジ馬しよう!

信仰編20/きつねと稲荷の世間話

「赤いキツネと緑のたぬき」との名称を持つ和風カップ麺商品があります。
製造販売元は「東洋水産」で、正式名称は頭にブランド名「丸ちゃん」を冠した、
「マルちゃん 赤いきつねうどん」「マルちゃん 緑のたぬき天そば」となるとの
ことです。


普段はあまり思い出すこともない、この「赤いきつねと緑のたぬき」という言葉を、
今年は思いがけない場面で耳にしました。
ええ、「東京都知事選挙」(投票日:本年7月7日)です。


驚くなかれ50名を超える多数の立候補者があった選挙でしたが、その中の
有力女性候補者2人に対して、マスコミなどがこれを綽名として用いたわけです。
その意味合いについては、この程度の受け止めになるのでしょうか。


「赤いきつね」とは、多選知事阻止のスローガンを掲げて立った蓮舫候補者の、
その思想傾向を「赤い」、そして「きつね」は候補者のスリムな体型と
遠慮知らずで過激な舌鋒をイメージしたもの。
また「緑のたぬき」とは、再選を窺う現職知事の小池百合子候補者陣営の
選挙用シンボルカラーの「緑」と、候補者の体型を「たぬき」と揶揄したもの。


幾分失礼な表現にも感じられるところですが、「言論の自由」という理念に照らすなら、
まあこの程度はセーフということなのかもしれません。
そして、ついでに指摘しておくと、この選挙の開票結果は多くの事前予想と大きく
異なったものになったことは皆さますでに御承知の通り。


漏れ聞くところによれば、「赤いきつね」の獲得票はどうやら目論見の2/3程度に
留まったようで、つまり全く想定外の惨敗を喫したということです。
この結果には、候補者・陣営ともさすがに大きなショックを受けたとされています。


~こんなはずではなかった~ということなのでしょうが、このあたりの経緯が
投票権のない他地域の人々にも格好の話題となったことは、まだまだ記憶に新しい
ところです。


さてそこで、いささか肩透かし、あるいは詐欺まがいの運びになりますが、
今回の話題をその「赤いきつね」、もっと絞り込んだ言い方なら「きつね」、そこらの
辺りから模索することにした次第です。
なんとも勝手気儘、傍若無人な振る舞いでまことに申し訳ありませんねぇ。


   赤いきつねと緑のたぬき


さて、この場合の、つまり「マルちゃん 赤いきつねうどん」の「きつね」とは、
言葉を換えるなら、じつは「油揚げ」のことを言っています。 
事実、中身にはデッカイ「油揚げ」が鎮座しています。
では、なんで「きつね=油揚げ」になるのでしょうか?
一見、無関係のように感じられるところです。


このことにはこんな説明もあるようです。
~キツネは油揚げが好物といわれるところから~
ところが、これは俗説に過ぎず、実際にはそうでもないようなのです。


なぜなら、動物である「きつね」についてはこんな説明になっているからです。
~狐が「油揚げ」を好物にしているというのは、実際には民間伝承や神話に基づく
 フィクションです。 
 現実の狐は肉食性の動物であり、小動物や昆虫、果物などを主に食べます。
 ですから「油揚げ」のような人間が作った食べ物は狐の自然な好物ではありません~


そこで、今度は「きつねうどん」とは別に、その油揚げに飯(あるいは酢飯)を
詰め込んだ食べ物を眺めて見ると、実はこの「きつねうどんに」倣った大方
「きつね飯」とはしていないのです。
いや、実際にはそのように言うところもあるのかもしれませんが、一般的には
「稲荷鮨」(いなりずし)、あるいは単に「稲荷」(いなり)ほどの言い方をして
います。


また、由緒正しい生活態度の筆者などは、この「稲荷鮨」を日頃から「サン付け」で
「おイナリさん」とお呼びしているくらいのものです。
頻繁に使う言葉ではあるものの、今まで筆者が「おイナリさん」と言ったことで、
これを「稲荷神社」あるいは「稲荷寺」のことだと誤解されたことはありません。
要するに、世間においても「油揚げ=稲荷」という言葉の連結はしっかりと定着して
いることになります。


やれやれ、少しばかり面倒臭いお話になってきましたが、では「好物」ということ
ではないとしたら「きつねと稲荷」って、いったいどんな関係になるの?
これについての説明も探してみることにしました。


すると、こんな説明が見つかりました。 ~キツネは稲荷大神のお使いである~
それは何となくイメージしていたことだけど、さらにはこんな注記も添えられて
いたのです。 ~(但し)神さまそのものではない~ 
そういうことなら、ズバリ両者の相関関係はどういうことになるの?


     

       稲荷すし / きつね(稲荷社)


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これにもちゃんと説明はありました。
~稲荷大神にとっての「キツネ」は神さまのお使いをする霊獣である~
さらに御丁寧に、
~熊野神社の「カラス」や八幡神社の「ハト」、氏神さまの「狛犬」などと同じように
「神使」(かみのつかい)「眷属」(けんぞく)などと呼ばれる~


はぁなるほどねぇ、「きつねと稲荷」はそういう関係なのか。
しかし、これまで聞いたことのないその「神使」「眷属」という言葉についても、
念のために確かめておく必要がありそうだ。


すると、
~ 神に代わって神の意志を伝えるなどする蛇や狐、龍などを「神使」と呼ぶ~
だったら、もう一方の「眷属」は? 
~(眷属は)本来、神の使者をいう。 多くはその神と関連する動物(想像上の
 動物を含む)であり、動物の姿を持つ、又は動物にみえる、超自然的な存在を
 意味することもある~


なるほど、なかなかに神経質な説明になっていて、正直なところ筆者の頭は
茶ノ木畑へ迷い込んでしまった印象です。
ということで、こうした危険地帯からは直ちに脱出することにした次第です。


ともあれ、「きつね=稲荷」の関係性については、こんな説明にも遭遇しました。
~民俗学者の柳田國男(1875-1962年)も指摘しているように、
 日本人には古くから神道の原形として「山の神、田の神」の信仰がある~

これは要するに、春になると山の神が山から里へ降り、田の神となって稲の生育を
守護し、収穫が終えた秋に山へ帰って、山の神となるという信仰だということです。


そして、その説明は続きます。
~キツネもまた、農事の始まる初午の頃(現在では2月最初の午の日にあたる)から
 収穫の終わる秋まで人里に姿を見せていて、田の神が山へ帰られる頃に
 山へ戻る。
 このように神道の原形である「田の神、山の神」と同じ時期に姿を見せるキツネの
 行動からキツネが「神使」とされるようになった~


つまりキツネと農業は、その活動パターンがシンクロしているように見えたことで、
~キツネがお使いとして選ばれたのは、稲荷大神が農業神であることと
 深く結びついている~
とのことです。


さらには、
~このキツネが稲荷大神のご祭神(神そのもの)と混同されるようになったのは、
 平安時代以降の神仏習合により、稲荷大神が仏教の守護神、
 
茶枳尼天(だきにてん)の垂迹(すいじゃく/仮の姿)とされたからです~


「神仏習合」とか、はたまた「本地垂迹」とか、ますますマニアックな話になって、
筆者の頭も俄然クラクラし始めたゾ。
ところが有難いことに、このすぐ後段に結論じみた文言が添えられていたのです。


~茶枳尼天はまたの名を白晨狐菩薩(びゃくしんこぼさつ)と言い、キツネの精と
 されました。
 このことから、いつの間にか一般民衆の間で、稲荷大神のご祭神とキツネが
 混同して理解されてしまったわけです~


なあるほど、「きつね=稲荷」という受け止めになっている現実は、単にその色合いが
似ている(きつね色)というだけではなく、遡るなら日本民族の信仰心の根幹にまで
触れる必要までありそうな、それはそれは深いものであることを思い知った次第です。


ということで、機会があれば、この「赤いきつね」と「お稲荷さん」をセットにした
食事をしてみたいと思い始めているのが今日この頃の筆者です。


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