数字編12/イロハ歌の文字数はいくつ
日本人が一番好きな演劇は、最大公約数的になら「忠臣蔵」に落ち着くのかも
しれません。
その源泉を辿ってみると、実際に起こったいわゆる「赤穂事件」(1701-1703年)を
題材にした芝居「仮名手本忠臣蔵」がメッチャの大人気を博したことに行き当たり
そうです。
始まりは人形浄瑠璃の演目として登場しました。 ところが、
~初演のときには「古今の大入り」、すなわち類を見ないといわれるほどの
大入りとなり、同じ年に歌舞伎の演目としても取り入れられている~
実際の事件からは半世紀近く遅れた時期の上演になりましたが、
~延享4年(1747年)には初世沢村宗十郎が京都中村粂太郎座の『大矢数四十七本』
で大岸宮内を演じた。
そしてその集大成が寛延元年(1748年)8月に上演された二代目竹田出雲・
三好松洛・並木千柳合作の人形浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』である~
浄瑠璃のお人形サンが演じるスタイルではなくて、生身の人間が演じたことで、
ひょっとしたら当時の人は、まるでドキュメンタリーもどきの迫力・生々しさを
覚えたのかもしれません。
それはともかく、ではこのタイトルにある「仮名手本」とはいったい何のことですか?
筆者とてしっかり理解していたわけでもありませんので、そこで少し深入りして
みたところ、どうやら字面通りの意味合いで、
~「いろは歌を仮名で書いた習字のお手本」~との説明です。
要するに、「いろは文字の数(47)=(47)赤穂四十七士」を指していることに
なりそうです。
歌舞伎・仮名手本忠臣蔵
さてお話は幾分アチコチするのですが、その「赤穂事件」から二十年ほど後のこと、
江戸の町に“町火消し”が組織されています。
ちょっとばかりウルサイ説明になっていますが、その「火消し」についても確認して
おくことにしましょう。
~消防組織としての火消は、江戸においては江戸幕府により、頻発する火事に
対応する防火・消火制度として定められた。 そして、
武士によって組織された武家火消(ぶけびけし)と、
町人によって組織された町火消(まちびけし)に大別される~
さらに、
~武家火消は幕府直轄で旗本が担当した定火消(じょうびけし)と、
大名に課役として命じられた大名火消(だいみょうびけし)に分けて制度化された
ため、合わせて3系統の消防組織が存在していた~
ですから、その3系統とは、定火消/大名火消/町火消/を指していることに
なります。
そして言葉を換えるなら、現在の「消防署」のような火災に対応する統一された
公的機関が、当時はまだなかったということになりそうです。
さらには、~その町火消しの名称を江戸では「いろは四十七組」と称しました~
ですから、先の「仮名手本忠臣蔵」と同様にまた、
「いろは歌の文字の数(47)=(47)四十七組」を指していたことになります。
さて、ここまではさしたる問題はないのですが、ところが後にいろいろな編成替え
なども伴って、この「町火消」が、現在では四十七組ならぬ「いろは四十八組」と
いう呼び方をされているのです。
これだと、「いろは歌の文字の数(47)なのに(48)四十八組」で、いかにも
落ち着きが悪い。
そこで否応なくこんな疑問が浮かんできます。
~「いろは歌」のホントの文字数は“47”なのか“48“なのか?~
そこで、いささか野暮な所業とも思えるものの、それを確認する意味で「いろは歌」
の文字数を実際にカウントしてみることにしたのです。
「いろは歌」とは漢字混じりなら、
~色はにほへど/散りぬるを/我が世たれぞ/常ならむ /
有為の奥山/今日越えて/浅き夢見じ/酔ひもせず~
しかし「仮名手本」ということですから、これを「仮名/かな」で書き改めると、
~いろはにほへと(7)/ちりぬるを(5)/わかよたれそ(6)/つねならむ(5)
うゐのおくやま(7)/けふこえて(5)/あさきゆめみし(7)/ゑひもせす(5)~
数えてみましょう。 7+5+6+5+7+5+7+5=47文字。
う~ん、どのように数えても“四十七文字”です。
そういうことであるのなら、「いろは四十八組」」の”48”とは、なんのことなのサ?
当然このようなツッコミになります。
そこで、少々面倒な気分でしたが、それに耐え忍んで調べてみることにしたのです。
すると、こんな説明が見つかりました。
~いろは四十八組は、いろは文字をそれぞれの組名称とした。
(い組/ろ組/め組・・・など)
いろは文字のうち、「へ/ひ/ら/ん」は、それぞれ「百/千/万/本」に
置き換えて使用された~
なんで置き換えたの、その理由は?
~これは、組名称が「へ=屁/ひ=火/ら=摩羅/ん=終わり」に通じることを
嫌ったためであるという~ ※参考:Wikipedia
ちなみに、その「摩羅」とは・・・いや、説明は不要ですね。
つまり、「ん」の字を含めれば「四十八文字」、含めなければ「四十七文字」だと
言っていることになります。
これで、「数字が“1”だけ違う」という疑問は一応の解決をみたことになりますが、
実はこの説明もヘンなのです。
町火消し / いろは歌(完全パングラム)
なぜなら、もし「ん=終わり」に通じるから町火消しの「ん組」を避けたということ
であるならば、「いろは歌」の最後の文字は、やはりその「ん」だということに
なります。
ところが実際には、上にあるように「ゑひもせす」の「す」が最終文字になっている
のですからヘンなのです。
で、ついでのことに(面倒ったらありゃしない)このことも調べてみると、
こんな説明になっていました。
~古くから「いろは四十七字」として知られるが、最後に「京」の字を加えて
四十八字としたものも多く、現代では「ん」を加えることがある~ ※参考:Wikipedia
おいおい待て待て、最後に「ん」を加えたのは「現代」ではないゾ。
「いろは四十八組」が編成された(1720年)頃には、その命名法、そして特定の文字
(へ/ひ/ら/ん)を忌避したという改名法からしても、すでに「ん」を
「最後の文字」として認識していたはずだがや!
興奮して、思わず御国言葉の尾張弁が出てまったがや。 ゴメン。
ということで、Wikipediaの説明にも時には矛盾がある、という事実に今さらながら
再認識した次第です。
それはともかく、~すべての仮名を重複させずに作った歌~
これは、この「いろは歌」の他にもあるそうです。
~ホントにそんな器用なことができるのかしらん?~
明治30(1903)年のこと、同様の趣旨の歌が新聞(万朝報)で募集もされ、その折の
一等に下の「鳥啼歌(とりなくうた)」が選ばれたのです。
そして、これは戦前までお馴染みの「いろは順」と共に「とりな順」として、
よく使われていたとのことです。
念のために申し添えるなら、この「鳥啼歌」は明確に「ん」を含んだ全48文字に
なっています。
漢字混じりなら、こう書きます。
~鳥啼く声す/夢覚ませ/見よ明け渡る/東を
空色栄えて/沖つ辺に/帆船群れゐぬ/靄の中~
読み方は、
~とりなくこゑす(7)/ゆめさませ(5)/みよあけわたる(7)/ひんかしを(5)
そらいろはえて(7)/おきつへに(5)/ほふねむれゐぬ(7)/もやのうち(5)~
仮名の文字数を確認してみましょう。
7+5+7+5+7+5+7+5=48文字。
日本民族特有の律義さと繊細さを見事に反映した出来栄えになっています。
なにせ遥かの昔に「万葉集」や「源氏物語」など、数多の名文を生み出したほどの
民族ですから、その完成度だってハンパなレベルではありません。
ところが民族や使う言語が異なると、実はそうでもないようです。
たとえば「英語版いろは歌」。
英語のアルファベットすべての文字を含む文章を「パングラム/pangram」と
呼ぶそうですが、その有名な例としてこんな文章が挙げられています。
~The(3) quick(5) brown(5) fox(3) jumps(5) over(4)
the(3) lazy(4) dog.(3)~
英語に徹底的に疎い筆者ですから、その日本語訳をAIに依頼してみたところ、
こんな回答が。
~素早い茶色のキツネが怠け者の犬を飛び越える~
ところが、そのアルファベットの文字数を指折り数えてみると、
3+5+5+3+5+4+3+4+3=なんと35文字。
アルファベットは全部で26文字ですから、それより9文字も多いことになります。
つまり、「完全パングラム」になっている日本の「いろは歌」に比べたら、かなり
「不完全パングラム」もしくは「ゆる~いパングラム」」ということになりそうです。
ということで、35文字-26文字=9文字。
つまり、どこかに「重複文字が9ツ」ほど隠れていることになります。
そこで、アナタにお勧めしたいのですが、もし、ヒマと根気を持て余すようでしたら、
その「重複文字探し」にチャレンジされてみてはいかがでしょうか。
ええ、そのアナタに指摘されるまでもなく、確かに筆者もヒマ人の一味には
違いありませんが、それにチャレンジするほどのヒマ人でもなくて、言葉を換えるなら、
かなり「ゆる~いヒマ人」なのです。
その点は、どうか悪しからずご理解くださいナ。
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