ヤジ馬の日本史

日本の常識は世界の非常識?この国が体験してきたユニークな歴史《日本史》の不思議をヤジ馬しよう!

ツッパリ編32/俺たちにミスはない国家

世界の中には、現代日本の現状から眺めてみると、奇妙なほど歪に感じられる国家も
あります。
例えば専制政治の体制を取っている国家などがそれに該当しそうですが、筆者なぞは
少なくともその国家の国民になりたいとは思いません。
たとえ、なんだかんだの批判があったとしても、戦後日本は国家の在り方として、
国民に対する自由や平等や権利などを保障しているからです。


とは言うものの、その少し前までの日本はそうしたカタチを取っていませんでした。
言葉を換えれば、その時代においては民に対する自由や平等や権利にはとんと
無頓着だったということです。


そのことが分かりやすいのは、例えば江戸時代です。
当時の社会には、「士農工商」という儒教における身分概念があり、「人間の平等」
という意識はほぼほぼなかったからです。


 江戸時代の「士農工商」


もちろん、それは儒教の本家・中国並みの「身分序列/身分制度」ほどガチガチな
ものではなかったようですが、日本でも「士」と「その他の農工商(民)」くらいの
意識は確実にありました。


もっとも、本家・中国の「士」とは、士大夫つまり官吏・学者などを指しましたが、
日本では武士を意味しました。
なぜなら、江戸時代の日本は儒教の一派である朱子学を大いに奨励したものの、
その「士」を誕生させるための超難関試験「科挙」については、ついぞ採用しなかった
からです。


ですから、「科挙」はなかったものの、当時「士」の身分に該当した者、つまり
武士は例外なく朱子学の徒であり、またそれがエリートに他ならないことを
自他ともに認めていたことになります。
政治は「士」が担い、「その他の農工商(民)」の存在はそれに従う、という
システムを是としたというわけです。


ではなぜ、それでいいのか?
頭の良い(インテリ)「士」が、無知(非インテリ)な「その他の農工商(民)」を
指導するというシステムですから、その点の整理ができていないケースよりは、
ぐんと理に敵っているという考えでした。 そうなると、こんな思想も生まれます。
~(愚かな下々の者が)御政道に対して意見を持つなんてことは言語同断!~


えぇ、なぜならインテリの考えは無知な者の考えより、断然勝っているはずだからです。
具体的な例を挙げてみましょう。
江戸後期の幕府老中・松平定信(1758-1829年)の政治姿勢がまさにその典型でした。


自ら主導した「寛政の改革」を自画自賛し、さらには、それとは違った政治路線を
掲げた大先輩老中・田沼意次(1719-1788年)を徹底的に敵視したのです。
もっとも、そこには血筋に対する優越感も働いていたかもしれません。


なにせ、自身は第八代将軍・徳川吉宗の孫であり、片や田沼意次はその吉宗の
世子・家重(第九代将軍/1712-1761年)付きの小姓からキャリアを始めた人物なの
ですから、それこそ雲泥の差です。


定信の態度は、幕閣にある大先輩に対してもこうですから、これが一介の民が相手
ともなると、さらに露骨なものになります。
『海国兵談』を出版することによって、海の危険性・海防の必要性を訴えた
林子平(1738-1793年)に対し、出版禁止に留まらず、版木までもを処分するなど、
徹底的に弾圧しました。


要するに、松平定信の言いたかったことは、
~学ある我ら(朱子学エリート)が定めた方針は「無謬」(むびゅう)である~
ちなみに、この「無謬」とは、
~理論や判断に間違いがない~という意味ですから、言葉を換えればこうなります。 
~俺たち(がやること)にミスは(あり得)ないッ!~


これは18世紀のお話です、
ところが世界は広いもので、21世紀の現代になっても、同様の主張、つまり自分たちの
無謬性を声高に叫ぶことに没頭している国家もあるのです。
えぇ、~俺たちにミス(誤り)はないッ!~を、まさに表看板にしているのです。


 

俺たちにミスはない国家→左から)中国・北朝鮮・ロシア


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例えば、中国がそうです。
現在では正式な国家名を「中華人民共和国」として、その「共和国」とは、早い話が

王様を持たない国家という意味ですが、ちょっと待て。
現代の中国にはその「王様」が君臨しているのです。


えぇッ、「王様」って? 
何を隠そう、何も隠しませんが、ずばり言えば「中国共産党」がそれです。
国民をエリートと非エリートに分けて捉えるという意味では、実は、自ら本家を自負
する朱子学と、中国共産党の思想には大きな共通点があります。


なぜなら、どちらもがこんな主張になるからです。
~愚かな非エリートは優秀なエリートの指示や命令に従うのが、国家としての
 正しい在り方である~

ということは、別の言葉にすれば、つまりこんな按配になります。
~俺たち(中国共産党)にミス(判断の誤りや政策の失敗)はないッ!~


ですから、さらにはこんな考え方に結びついてしまうのです。
~自分たち優秀なエリートの方針に沿わない愚かな存在を野放しにすることは、国家の
 危険でもあるのだから、転向させるか、もしくは粛清する必要がある~


毛沢東(1893-1976年)主席の主導下で、1965年秋から10年間にわたって全中国社会を
揺り動かした政治的・社会的動乱いわゆる「文化大革命」がその典型的な出来事でした。


この出来事は、社会主義社会における革命運動として中国社会全体を激しく揺さぶり、
未曽有の混乱に陥れたばかりか、全世界に大きな衝撃を与えました。
そりゃあそうでしょう、こんな状況だったのですから。


~悲劇は拡大し、いわゆる「文化大革命」中の権力闘争や武力闘争で約2000万人もの
 死者を出したともいう~

それでも、中国共産党はこう言い切っていたのですから、ある意味凄い。
~俺たち(中国共産党)にミス(判断の誤りや政策の失敗)はないッ!~


何かにつけ忘れっぽい日本民族はもうすっかり忘れてしまっているのかもしれませんが、
ちなみに、中国の自国民に対する大粛清に対し、当時日本国内に向け意図的に
ヨイショする記事を書き続けていたのが「朝日新聞」でした。
えぇ、「従軍慰安婦の強制連行」という捏造報道もメッチャ大胆不敵な所業でしたが、
事実を伝えなかったという点では、この「文化大革命」関連記報道もなかなかのもの
だったのです。


その意味では、北朝鮮も同類というか、さらに輪を掛けた
~俺たちにミス(誤り)はないッ!~ぶりを見せていますねぇ。
なにせ21世紀になっても、自らの血統を神格化し、権力の世襲を堂々と行っている
だけでなく、その姿を自画自賛しているのですから。
これと同じ物差しを持つ国家は、おそらく21世紀の世界においては皆無のはずです。


その正式な国名を「朝鮮民主主義人民共和国」というようですが、国際感覚からすれば、
まさに噴飯物の国名で、筆者なぞはどこが「民主主義」なのだと突っ込みを入れたい
気分にもなります。


初代・金日成(1912-1994年)がゲリラ活動の本拠とした土地であり、また二代・
金正日(1941-2011年)の誕生地とされる「白頭山」、多分に神話チックですが、
それに連なる直系血統、いわゆる「白頭山の血統」(白頭血統)の内だけで
権力の継承が行われているのですから、とても「民主主義」とは感じられません。


そして、この「白頭山の血統」の面々もまた、絵に描いたような、
~俺たちにミスはないッ!~ぶりを示しているのは皆様ご案内の通りです。
そういえば、ロシア大統領ウラジーミル・プーチン(1952年生)もまた、
~俺たちにミスはないッ!~の一派と見るべきかもしれません。
他国であるはずのクリミアやウクライナ侵攻に対して、毛ほどの後ろめたさも感じて
いないようですからねぇ。


ともあれ、21世紀の現代においてさえも、~俺たちにミスはないッ!~
自分だけの正義を声高に叫ぶ、前時代的な国家があることは、あらためて認識して
おく必要がありそうですねぇ。



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