怪人編37/聖人も英雄も時にはキレる
筆者は読んだことがありませんが、「新約聖書」にはこんなエピソードが
記されているそうです。
イエスが弟子たちと共にエルサレム神殿を訪れた際の出来事です。
~神殿の境内が商人たちの商売の場と化していたことに憤り、イエスは、
/両替人の台をひっくり返す/鳩を売る商人たちを追い出す/売買をしていた
人々を神殿から追放する/などの行動をとった~
なんでも「宮清め(みやきよめ)」と呼ばれるエピソードだそうで、今風の言い方なら
「イエスがキレた」というところでしょうか。
そして、この時のイエスはこう叫んだとされています:
~「わたしの家は祈りの家と呼ばれるべきである」と書いてある。
それなのに、あなたたちはそれを『強盗の巣』にしている~
商人たちを強盗と呼ぶなぞはいかがなものかと筆者的にはそんな感じもする
ところですが、それはともかくこの行動の背景と意味は一般的にはこのように
受け止められているようです。
~この時のイエスの行動は単なる暴力や癇癪ではなく、宗教的・社会的な
抗議行動と解釈されるべき~
どんな「抗議」なのかといえば、このような深い意味がくみ取れるとのことです。
〇神殿の世俗化への批判
本来は祈りと礼拝の場であるはずの神殿が、金儲けや取引の場になっていた
ことに対する強い批判。
〇宗教指導層(祭司や律法学者)への告発
神殿運営に関与していたユダヤの宗教指導者たちが、信仰を名目にして
経済的に庶民を搾取していたことに対する批判。
〇神の義と正義の回復
神殿が本来持つべき「清さ」や「正義」を取り戻すための象徴的な行動
(プロフェティック・アクション)を、イエスが取ったとの見方。
そして、このエピソードに対してはこんなことも言われています。
~この行動は宗教指導者たちの怒りを買い、最終的にはイエスの
逮捕・処刑(十字架刑)への道を早める要因となり、つまりこの「宮清め」は
イエスの生涯における重要な転機でもあった~
さらにくどくどと言葉を費やすなら、こんなことになりそうです。
~イエスが神殿の商人たちを追い払ったのは、単なる暴力や感情の爆発ではなく、
信仰の本質(祈りと神との交わり)を守るための象徴的行動であり、
堕落した宗教体制に対する強烈な抗議だった~
でもでも、なんでまた神殿で商売を? こんな説明になるようです。
~当時、神殿では動物の生け贄(いけにえ)が不可欠であり、遠方から来た
巡礼者たちのために、動物(羊・鳩など)や神殿通貨への両替が必要でした。
これは一種の「便利さ」の提供でしたが、過度な商業主義と搾取へと
変質していたため、イエスはこれを正したかったのです~
信仰と商売は結構微妙な関係にあるようです。
そういうこともあって、イエスのこの行動は昨今の新聞三面を飾るような
「キレた行動」とは一線を画すものだとされるわけです。
そりゃあそうでしょうね。
信仰聖人がそこら辺の一般人と同様のレベルで「キレていた」のでは、やっぱり
ありがたみがありませんからね。
お話は一変して今度は日本神話です。
こちらは聖人ではなく英雄と言うべきかもしれませんが、やはり「キレた」との表現に
なりそうなエピソードが残されています。
そのお話の主の名は「日本武尊(小碓命)」※倭建命/ヤマトタケル
自らは天皇になったことはありませんが、第12代・景行天皇の皇子であり、
第13代・成務天皇の異母兄であり、しかもまた第14代・仲哀天皇の父とされています。
ただしかしメッチャ古いお話ですので、このあたりの「家系図」も必ずしも
正確だとはいえないのかもしれませんが。
この日本武尊(小碓命)が若い頃のお話です。
景行 「なあ小碓よ、最近朝夕の食事にもとんと現れなくなった大碓に
気軽に顔を出すようにねぎ(ていねいに教え諭す)なさい」
その前に、ここに至るまでの経緯を述べておく必要がありそうです。
それはこんな運びになっていました。
実は、父・景行天皇と息子(兄)・大碓命の間には“女性”を巡る微妙な関係が
あったのです。
具体的には、父・景行から「美濃国から二人の女性(姉妹)を連れてくるように」と
命じられたものの、その美しさにメロメロになってしまった大碓命は、
なんと父・景行に「ダミーの女性」を差し出していたのです。
当然、父・景行も差し出された二人の女性が「コピーブランド」であることに
気付きます。
それがあって、大碓命は父・景行を避けるようになり、顔を合わせようとは
しなくなってしまったのです。 そこで「引き篭もり」です。
しかし、そうした経緯は弟・小碓命もしっかり嗅ぎつけていたのです。
つまり、ここに “女性”を巡っての父・兄・弟の三人の男による争奪戦・
バトルロイヤル・骨肉の争いが展開されていたことになります。
ちなみに、この兄・大碓命と弟・小碓命は双子の兄弟だったとされています。
こうした状況下で、父・景行は大碓に対する「ねぎ」を小碓に命じたわけです。
熊襲征伐 / 日本武尊
では、この時の小碓の対応はどうだったのか?
小碓 「あい、分かった! ほんなら大碓の兄貴を呼んでくらあ」
ふたつ返事、つまり快諾したのです。
ところが、いつまで待っても大碓は姿を現しません。
そこで、
景行 「なあ小碓よ、お前は一体どのように伝えたのだ?」
この時の小碓命の返事の内容が「キレた」にバッチリ当てはまるのです。
小碓命は身ぶり手ぶりを交えながら、丁寧に父チャン・景行天皇へ説明を始めました。
小碓 「まず、兄貴がトイレに入ったところをですね、ガバッとこのように
羽交い絞めにして、次にはこのように手と足を丁寧にもぎ取りました・・・
そんでもって、その流れでこのように菰(こも)でグルグルに巻き上げて、
最後にザンブとばかり海へ投げ捨ててきました」
景行 「お前、“ねぎ”という言葉を誤解したのか・・・
(それに腹に一物ある物言いだ、小碓の奴めはヤバイ!)」
ただし、これは「古事記」による物語であり、「日本書紀」では兄・大碓命は
40歳代まで生きたとされているようですが。
そういうことならちょっとばかり安堵もできますが、それにしても事が事だけに
なにかと「アブナイ家族関係」だとは言えそうです。
その家族間の最初の犠牲者はなんとも凄まじい猟奇殺人をくらったのが
兄・大碓命で、次がその犯人である弟・小碓命でした。
なぜなら、アブナイ家族関係にある父・景行天皇の命により「都落ち」、
それどころか遥か遠方の地「九州征伐」を命じられたからです。
で、その使命を見事に果たして帰国してみると、間髪いれず今度もまた遠方の
「東国征伐」を命じられます。
父・景行天皇だって必死です。
うっかり手元に置こうものなら、自分も大碓命の二の舞ですからねぇ。
こうした流れで、お話はまだまだ続いていくのですが、そこには、これまで
並べたように、/コピーブランド/セックス・スキャンダル/引き篭もり/
猟奇殺人/パワハラ/など、現代の世相に通じる数多のエピソードを過不足なく
散りばめてあって、実際退屈することがありません。
という次第で今回は、西方の聖人・イエスも東方の英雄・日本武尊(小碓命)も、
生身の人間と同様のすっかり「キレた」というエピソードを持っているという、
まことに他愛のない人畜無害なお話になってしまいました。
お許しあれ。
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。